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映画「ケイコ 目を澄ませて」予告動画

映画「ケイコ 目を澄ませて」の試写を見てきました。
小笠原恵子さんの「負けないで!」を原案に、視覚障害のボクサーを静かに淡々と描いています。

試合に勝った負けたと勝敗に一喜一憂し主人公の奮闘を手に汗にぎならが見届ける。
そんな王道のボクシング映画ではありませんでした。
「ロッキー」のようにドラマチックで派手な演出はなく、「あゝ、荒野」のような荒々しさもない、日々の営みを静かな感情にのせて描いてる。

ただそれは“ボクシング”に手を抜いていない。
監督と一緒に3ヶ月みっちりトレーニングを積んだからこそのミット打ちやシャドーが本物で、ケイコとして違和感がない。
ミットを打つリズミカルな音、無駄のない動きで移動するステップ、リングの上で対戦相手を倒そうとする気迫。
素晴らしいです。

原作「負けないで!」

視覚障害者をテーマにした作品によくある演出が一切なかった。
耳が聞こえない日々の苦しさや支える人々の苦悩に感情を載せられてしまう場面が一切無い。
主人公は耳が聞こえないことがハンデと思っていないようで、それがあまりにも自然すぎて、作品を見終わって振り返るまで気が付かないほど。

聴覚障害に感情移入することなく、障害をフックにしていない作品は初めての体験。
見終わったあとにジワジワくる新体験の喜びがえります。
障害があることを一瞬忘れてしまうほどなので、そこに邪魔されず作品に入っていけるのはすごい。

とはいえ、会長のインタビューシーンや警察官とのやり取りでケイコが聴覚障害者だということに気づかされる。
三宅監督に遊ばれてるかも。

通常の作品よりも遥かに大きな環境音。
あえてもととれるリズミカルな練習風景。
耳の聞こえない主人公のかわりに、作品を見ている健聴者に“音”を聞かせている。
劇中にほとんど音楽がなく、エンドロールまで耳にこびりつく様々な音。
彼女はこの音を本当は聞きたいんじゃないのかなと余計なことを思いつつ、自分の耳で聞くことができる素晴らしさを自然に噛み締めてしまいます。

日々の営みの中で立ち止まってしまう主人公が、顔を上げ駆け上がっていく。
前を向いて立ち上がっていく瞬間の描き方がとても秀逸で、ベタに勇気をもらえます。
静かな感動と静かな情熱に、心を大きく揺さぶられる作品でした。

関連リンク

ケイコ 目を澄ませて

原作「負けないで!」

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